2011年7月6日水曜日

お坊ちゃん風がいい:よろずや平四郎活人剣(藤沢周平)

僕がブログで最初に取り上げた本は、藤沢周平氏の「用心棒日月抄」だったけど、
その中で、「よろずや平四郎活人剣の方が好き」、と書いた。

その理由を考えてみたんだけど、以下の2点に集約される気がする。
・軸が単一(正確には単一じゃないけど、大団円を前に交わる)
・作中の雰囲気が明るい。

一つ目の軸については、幕閣内の権力闘争や、
神名家の当主で、主人公神名平四朗の兄、監物と鳥居耀蔵との対立という軸と、
平四朗の恋という軸があるんだけど、大団円を前にうまく交わるようになっていて、
読んでいて気持ちがいい。
正直、結末が読めると言えば読める小説だけど、それは気にして読んではいけないかな、という感じ。個人的には、ハッピーエンドで終わって、読後感がいい小説だと感じた。

二つ目の雰囲気の明るさなんだけど、
主人公の神名平四郎が、冷や飯食いとは言え、大身旗本の子息でお坊ちゃん、
という背景があるのかな、と思う。
兄嫁にお小遣いをもらったりというところは、なかなかに経済的に恵まれているし、
それが、足が出る仕事を引き受けたり……という好人物っぷりにもつながるのかな。

女運のなさというか、女難の気があるところも、お坊ちゃん然とした主人公の雰囲気にまた合う。

明るい雰囲気もあいまって、短い時間にお気軽にパラパラと読むのに最適な作品。
連作短編集なので、電車通勤の合間なんかに読むのに適しているかも。


というのはさておいて、
本作を読んでいて、「藤沢氏ってすごいなぁ」と思った一文をご紹介。
正直、僕はこの一文を読むためにこの本を買ってもいいと思ったぐらい。

それは主人公の平四朗が、寒い冬に大根を食べるシーンの描写。
『土間に立ったままあふあふいって喰った』

この『あふあふ』ですよ、『あふあふ』。
熱さが伝わってくるし、物語の明るい雰囲気ともすごく合う、すごい擬音だと思う。
正直、僕は藤沢氏の「食事の描写」が上手だとあまり思ってなかったけど、
これには完璧にやられました。

# 藤沢氏の食事の描写って、作り手と食べ手の紡ぎだす美しい空気を使って、
おいしさを表現しているような気がしていました。

うーん。もうくそ暑い時期だけど、熱っい大根をあふあふ言って食べようかなぁ。
なんて気の迷いを生じさせてくれる一文だ。


2 件のコメント:

  1. どうも、こんにちは。
    コメントありがとうございました。

    僕も藤沢周平好きなんですよー、
    僕のイチオシは・・・・ってここまで書いて
    遠藤周作と勘違いしてたことに気づきましたっwww
    名前を文字で見てみると似てますよね~

    これからもよろしくです!

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  2. > mopitrailさん

    こんばんは、mopitrailさん。
    こちらでは、はじめまして。

    遠藤周作、僕も大好きです。
    そのうち、『沈黙』と『イエスの生涯』、
    『海と毒薬』あたりは書評ネタにしようかと。
    mopitrailさんのイチオシもぜひ教えてください!

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