2011年8月15日月曜日

読後さっぱり:エデン(近藤史恵)

※ちょこちょこネタバレ個所は、白字で書いてます。全部読みたい方は反転させて下さい。

読後、結構引っ張ってしまったのは、感想が二転三転してしまったからです。
ようやくにして、感想が落ち着いてきたので、そろそろまとめてみようと思います。

言わずと知れた(?)『サクリファイス』の続編ですが、『サクリファイス』を読んでいなくても、物語に入っていけるよう、工夫されています。

その前作との比較で言えば、ミステリ要素はさっぱりと言うか、皆無です。
ただ、それは悪いことではなくて、スポーツ小説として、より密度を増して、ロードレース/ツール・ド・フランスの世界に読者を誘う効果をあげていると思います。

ストーリーは、ツール・ド・フランスを舞台に、チーム消滅の危機と、それに伴うアンフェア(フランスの若き新星、ニコラを勝たせるため、チームのエース、ミッコをも蹴落とすような)な競争、そして付きまとうドーピングの影を描きながら、主人公白石誓(チカ)の選択、走りを描きます。

レースも終盤に差し掛かったところで、プロトンを襲う悲劇がやってきますが、それぞれの登場人物に来年のツールの舞台(作中で言う『楽園=エデン』)での宿題を与えられ、次のステップを踏んでいけるので、さっぱりとした読後感を得られます。
(ドニは死に損……?『サヴァイブ』も読んだ後だからこそかもしれませんが、生きているからこそ、次があるんだ、と言うメッセージにも感じます。穿ちすぎかな?)
僕が思う、それぞれの登場人物の来年のツールでの宿題は以下です。

チカ:ニコラに堂々と勝負を挑む。
ニコラ:またツールの舞台に戻ってくる。
ミッコ:山岳ステージでも勝利し、今度こそ完全な王者になる。

彼らがどういう形で宿題を解くのか、続編を読んでみたい。そう思わせる一冊です。できれば来年のツールの前に出版して欲しいなぁ。なんて思うのはよくばりすぎでしょうか(笑)

それにしても、 ツールで登場するジャージ(黄色のマイヨ・ジョーヌ(総合一位)、水玉のマイヨ・グランペール(山岳賞)など)を、巧みに小道具に使っているのは、すごく描写が上手だなぁ。と思いました。


個人的なお気に入りは、ニコラがマイヨ・ジョーヌ(黄色)を手放した後、再びマイヨ・ジョーヌを取り戻すべく、マイヨ・ブラン(白)を身に着け、果敢にアタックをする 「賢くはないが美しい」彼を「白い鳥」になぞられるところ。なかなか乙な描写です。

この辺のジャージの説明も含め、ロードレースやツール・ド・フランスを知らない人には、入門書代わりに手に取ってもいい本だと思います。
さて、と結構ほめたたえたところで、僕が気になるところを。
感想が二転三転した今も、ちょっと疑問なところです。

『サクリファイス』から通して読んだ僕が思うに、チカをロードレースの本場、ヨーロッパの舞台に押し上げた「彼」の呪縛は、「ヨーロッパで走り続けること」だと思うんですよね。
それに対して、チカは「彼とは違う。日本に戻ることになってもいいから、あなたをアシストする」とミッコに語る。
これは、「彼」の呪いから解き放たれたのかな?と感じる台詞です。
でも、ニコラに対して、「超弩級の呪いがね」と語るのに、少し矛盾みたいなものを感じちゃうんですよね。
読解力の不足かな?もう一度ぐらい読めば、この辺もしっくりくるかもしれませんが、逆に強く矛盾を感じるかもしれません。
(『エデン』だけを読めば、矛盾なく読める個所ですね)

2 件のコメント:

  1. こんにちは。

    エデンはサクリファイス読んでなくても読めるようになっていて、サクリファイスとは違った良さがありますよね。
    サクリファイス程のインパクトはありませんでしたが、読みやすくて、もし続編があるなら読みたいなあと思わせてくれる作品でした(^^)

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  2. >たてわき07さん

    インパクトは確かに『サクリファイス』が上ですね。
    続編と言いつつ、『エデン』と『サクリファイス』で、
    まったく違う楽しみ方ができるのはすごいですね^^

    ほんと続編を読みたい作品です。

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